HONDA VF1000R 1984y

HONDA VF1000R 1984y 

(リード)

 V型シリンダーレイアウトのエンジンは、インラインシリンダーエンジンよりコスト高になる宿命を背負っている。サイズが異なるとはいえ、シリンダーヘッドまわりは単純計算で2倍のパーツが必要になるわけだし、すべての部分にわたってインラインとは異なる、それ相応の設計が求められることになるからだ。それでもあえて、ホンダがV型エンジンのラインナップ作りに力を入れたのは、レースの世界での最新テクノロジーを市販車に持ち込むという、有無を言わさぬ説得力が必要だったからだろう。そしてそれは、世界最高の4ストメーカーとしての威信を確固たるものにした。

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 それまでのフラッグシップモデルだったCB1100Rを押し退け、一躍頂点のモデルへと踊り出たVF1000Rは、ハイテクメカニズムを満載したいかにもホンダらしいマシンだった。排気量998ccの水冷DOHC・V4エンジンは、市販車としては驚異的な高級メカニズム・カムギアトレーンを引っ提げた、完全新設計のユニット。カムギアトレーンは、バルブの作動タイミングがつねに正確にコントロールされる、という利点はあっても、騒音やメンテナンスの面で市販車向きとは言えないメカニズムだ。だいいち、それほどまでに正確なバルブコントロールが公道走行車に必要なのか、という疑問もあった。ホンダの出した答えは「必要」であったと明確な回答。

 最高の走りと最高の回転フィーリングを得るためには、カムギアトレーンは有効な手段である。ネガティブになる部分は消せばよい。ホンダのバイクメカニズムには、つねにこういう理想主義的なところがある。

 実際、新しいV4エンジンの持つポテンシャルは、あきらかにCB1100Rから2歩も3歩も進んだものであった。最高出力こそ、CB1100Rの120psから122psとわずかの向上しか見せてはいないが、レースのカテゴリーに合わせて排気量が減らされたことを考えれば、まずは納得のいく数値と言える。

 しかし、VF1000Rのエンジンの真価は、圧倒的な中速トルクにこそある。タコメーターの針が4000rpmを越えるあたりになると、排気量が2倍に増えたのではないか? と驚愕するほどの爆発的な加速力を見せつけ、乾燥重量244kgの車体をあっという間に250km/hオーバーまで引っ張っていく。

 もともとが超高速走行向けのギアレシオだし、排気音もいたって低く平和なまま回転が上がっていくため、恐怖感や過激さはやや抑えられているが、それでもその速さは尋常ではなかった。V4エンジンのもうひとつの利点である、マスの集中化と左右幅のコンパクト化を活かした車体設計、ハンドリングのセッティングもVF1000Rの特徴だ。

 リッターバイクの範疇を大きく逸脱した軽快なフットワークと、どんなハイスピードコーナリングにも音を上げないしっかりした足まわりで、このクラスのバイクには不向きとされてきた狭い日本のワインディングロードでも、爽快なコーナリングワークが楽しめた。

 ブレーキもじつに強力な利きを見せ、サーキットでも大活躍を収めたのである。しかし、逆輸入車というハンディを差し引いても、国内では思ったより人気が盛り上がらなかった。この時代のホンダV4は、とにかく世界最高の性能を生み出すことのみに全エネルギーが注がれ、心地よいエキゾーストノートやシャープなエンジンフィーリング、エキスパートライダーでなくてもそこそこ楽しめる表面的なスポーティさという、いわば見かけの性能が軽んじられた傾向がある。

 つまり、一般のライダーには難解すぎたのだ。ビッグバイクらしさがやや希薄なスタイリングの影響もあったのだろうか、その後も性能ほどの評価を得られないまま、いつの間にか消え去ってしまったのである。

風倶楽部

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