HONDA NS400R 1985

HONDA NS400R 1985

 今から、もう30年以上も経過しているのですね!この頃は、ライバル車としてはヤマハのRZ500Vや他にはスズキRG400/500γになるのですが、デビュー前の発表で3シリンダー…と言うものに対して少々疑問を抱いてしまったのです。MVX250Fの3気筒が当時のライバル車に対し過剰品質とまで言われながら、決して出来の良いものではなかった。90度4気筒であるなら理論上の一次振動ゼロとして、そのメリットを活かせることを知りながら、敢えて3気筒とする…そのメーカー側の意図が全く見えてこなかったのである。MVX-Fの失敗と成功は、確かに紙一重の問題であったようにも思えるが、その失敗をNSで肯定に転換させるだけのものがあるのだろうか…疑わしくも思っていたのだ。

 MVX-Fは確かに不満な点ばかりではなかった。2スト特有の回転域の頭打ちを解消し、11,500rpmの高回転域までも行き着くフィーリング。フラットなトルク特性。VT250Fよりも21kgも軽量な車体を活かし、コーナーリングは確かに俊敏な運動性能をもたらしてくれた。しかし、前傾させて配置させた#1と#3に対し後方に配した#2シリンダーには、動的質量で#1/#3の2本分の往復運動でバランスさせる…と言う複雑な構造が必要となり、コンロッドのビッグエンドとスモールエンドが通常とは異なる形状と成っていた。

 その結果、#2のピストンがシリンダーに与える側圧が要因となり、メカノイズとなる不快なスラップ音が発生していたのだ。オイルやガソリン消費率が激しく、かぶり気味のプラグに神経を費やした経験のあるユーザーも多く居たはずだ。

 不評は売れ行きに直結して、カタログ新車価格42万8千円に対し、販売店によっては24万円台で販売されていた事実もあり、買い得感もあり一部のマニアックなユーザーの満足を買っていたこともある。しかし、直接的なライバルとなるスズキのRG250γやヤマハRZ-Rの完成度の高さと成熟性に匹敵し得るには事足りなかった。

 3気筒でベアリングの数を減らし、フリクションロスを軽減してやろうと言う考え方はNS400にも受け継がれていた。MVXでは#2にバランサーを付け一次振動を全て吸収していたのだが、NSでは採用されては居なかった。往復運動部分は、軽ければ軽いほど良いので、MVXに比べリッターパワーもパワーバンドの広さも格段に違いのあるNS400Rでは剛性や振動に大きな問題を与えることに成るわけである。

 また、MVX-Fでは1個だったATACはNS400Rでは2個採用されている。トルクエリアを排気量でカバーするだけではなく、付加機器でカバーするわけだが、本来なら…各シリンダーに1個あれば理想的になる。NS-Rで2個…と言うのは、単にコスト面での問題であった。

 ホンダとしては、敢えて500をラインナップさせず、400に限定してNS-Rをリリースしたのは、HRCとは異なったホンダ本社なりの解答でもあった。若者の多くが乗れる最高級のバイクを…と言う願いがあったからだ。NS250のピストンを3個にすれば374cc。これを1mmアップして3気筒としたのがNS400Rの383cc。更に、1気筒増やせば500ccのユニットが完成することになる。しかし、大型車の枠に該当させたとしても、4サイクルの750オーバーマシンには到底匹敵しうるパワー性能には行き当たらないわけで、その辺りが4サイクルメーカーらしい判断でもあったわけだ。

 ビッグパワーとトップスピードを追求すれば当然に4サイクルのビッグバイクには叶うわけでもないのであれば、400に限定してコーナーリングマシンとした方が…その解答は、NS400Rの明らかなコンセプトを生み出すことと成った。ショートプラグを開発し、マスの集中化を徹底したあたりにホンダの本気度は伺える。軽量化と空気抵抗など、トータルパフォーマンスにも優れた車体設計は随所に見受けられる。

 更に、NS250に比べ気負うこと無く乗れるフォーム作りにもホンダ特有のものだった。ハンドルのグリップを1本分高くあげ、ステップを10mm前方に配置した結果、レーサーレプリカを意識することなく自然体で跨がれるマシンとなった。

 フロントブレーキは指1本でも十分な制動力を得られ、リアブレーキはロックしづらい設定を造り出している。左フロントフォークに装備されているTRACは、2に設定しておくのがベストだと思う。踏ん張りすぎず、姿勢変化を起こさせるほど沈み込まず…その後に思い通りのコーナーラインのトレースがとれる。

 アクセレーションによるトラクションの変化、それに対応するサスペンションの挙動がライダーの意思通りに作動する…コントローラブルなものだった。やや柔らかなサスペンション設定ではあるが、ビギニングよりフルストロークまで一定した沈み込みを見せてくれることで、マシンの挙動が把握しやすいことも利点である。

 MVX-Fで不評を買うこととなった結果ではないのだろうが、ホンダはNS-Rで3気筒としての見事な成果を生み出すことになったのである。

風倶楽部

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