VFR750F 1986

VFR750F 1986y

 発売以来まずまずの人気を獲得し、ホンダV4シリーズのイメージ牽引役として活躍してきたVF750F。しかし、ハイメカを満載し、すばらしい走りを見せてくれたわりには、インライン4のCBシリーズにとって代わるほどの評価は得られなかった。もっとも、その後のインライン4シリーズはCBX750F、CBR750Fとモデルチェンジするたびにパッとしなくなっていったわけだが、業界のトップランナーであるホンダがこの状況に甘んじているはずはなく、まったく新しいV4モデルを投入することになる。

 第2世代の750ccV4モデル・VFR750Fは、エンジンレイアウトこそVF750Fと同じだが、中身はまったくの新設計。国内初のカムギアトレーン採用に加え、コンパクト化と徹底した重量軽減が図られ、出力特性もパワフルさとスムーズさを両立させた洗練の極みを見せるもの。排気音や振動特性、吹け上がりのシルキーさなど、感覚性能の面でもあきらかにVFを上回っていた。このエンジンを搭載するフレームは、メインチューブにアルミの引き抜き材を使用したストレート基調のタイプで、ステアリングヘッドとスイングアームピボットにはアルミ鍛造パーツを用い、剛性感も近年のモデルと比較して遜色ない仕上がりだ。ブレーキキャリパーは、小型化を図りながらも、パッドに新素材のセラミックを混合して制動力、タッチを向上させるなど、いまだに一線級の走りを可能としている。

 ボディデザインを見てもわかるとおり、コンセプトも大幅に変えられている。VF750Fがいまひとつ大ブレークしなかったのは、速いことは速いが750ccらしい風格がやや希薄だったためと判断。流麗なフルカウルと素直で扱いやすいハンドリング、快適なライディングポジションを持つツアラーとして生まれ変わっているのだ。ただし、これらの変更でまったくのツーリングバイクに変貌したわけではないのがVFR750Fの真骨頂だ。高速ツーリングやロングツーリングの快適さ、街中での扱いやすさ、疲労の少なさなどは、たしかにVF750Fとは比べものにならないくらいに進化している。しかしそれと合わせて、走りの爽快さも大幅に向上しているのだ。しなやかな前後サスペンションは路面に貼り付くようなハンドリングを見せてくれるし、フロント16インチ、リア18インチを継承したホイールサイズとバランスの取れたディメンション、マスの集中化による切れ味のいいハンドリングで、ワインディングを走らせてもレプリカ並みの速さを堪能することができた。77psにパワーアップしたエンジンの威力もあって、ジェントルなフィーリングながらコーナーからの脱出加速には驚かされたのである。

 ただし、完成度を極限まで高めたためか、レプリカに見られるようなエキサイティングさや手ごわさは影をひそめ、ライダー自身が気付かないうちにとんでもない速さで走ってしまうという、理知的なライディングが要求されるマシンでもあった。さらに、デザイン面からのインパクトにやや刺激が薄かったこともあり、単なる大人のツーリングスポーツとして認識されてしまった印象は否めず、販売台数は思ったより盛り上がらなかった。実際に乗ってみれば誰もがその素晴らしさを理解できるバイクではあるのだが(面白みの点は別にして、だが)、ライダーの注目はどうしても派手なバイクに向けられてしまったのである。高速ツーリングの本場・ヨーロッパで高い人気を保ち続けていることを見ても、そのポテンシャルの高さは明らかなのだが。

風倶楽部

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