YAMAHA YM1 1965

YANAHA YM1 

(リード)

1964年のモーターショーでは、ボア・ストロークが60×54㎜と従来のヤマハのロードスポーツ系とは明らかに別物のクランクシャフトを持つ、総排気両305㏄の『YM1』が登場した。250㏄クラスが中心だったヤマハのロードスポーツ路線に、俄に変化の兆しがみえはじめたのである。


(本文)

 ヤマハの250㏄ロードスポーツであるYDSシリーズには、ボアを1㎜拡大して総排気量を260㏄とした、YESというモデルがあった。しかし、このロードスポーツは、あくまでもYD Sのバリエーションのひとつで、実際、車体回りをはじめとして、エンジンもクランクまわりは250㏄のYDSと共通のものを流用していた。このYESはむしろ、道路交通法に対処して誕生したYDSの派生モデルといえた。というのも、当時の道路交通法では、251㏄以上のモーターサイクルは高速車と分類されて、制限速度の上限が250㏄以下のモーターサイクルより10~20㎞/hほど高かったのである。そのため、ヤマハでは260㏄という中途半端な排気量のモデルを用意していたのだ。しかし、わずか10㏄ほど排気量を増やしただけでは、もちろん基本的な性能は250㏄クラスと変わるところはなかった。一方では、当時はすでにロードスポーツ、イコール250㏄という時代は終わりをつげ、各メーカーは先を争うように大排気量化に取り組んでいた。こうした背景には、主要マーケットであるアメリカ市場からの要求もあった。日本とは明らかに道路事情の異なるアメリカ大陸では、モア・パワーが求められていたのである。

 1960年に開設され、アメリカでの活動拠点となっていたヤマハ・インターナショナルにも、全米各地に展開するヤマハ系のディーラーから、よりパワフルな大排気量モーターサイクルを切望する声が殺到するようになっていた。こうした要望に早急に応えるために、ヤマハの技術陣は、既成の250㏄2サイクル・ツインのボア、ストロークを可能な限り拡大したエンジンを開発した。その上限までスケールアップした2気筒エンジンが、件の305㏄エンジンというわけである。したがって、発売初期のYM1は、YDS3と多くの部分を共用するモーターサイクルであった。

 外観上で両車を区別したのは主にカラーリングで、YM1のタンクは、マイナーチェンジ以前のYDS3の初期型のデザインと同様に塗り分けられていた。また、こまかな所では、マフラーのテールエンドにも若干の相違点があった。しかし、全体を通してみれば、YM1はYDS3そのものといったイメージのロードスポーツだった。また、性能的にみても、YM1は27馬力と250㏄のYDS3に比べて、わずかに1馬力が上乗せされたにすぎなかった。しかし、排気量アップの恩恵で、パワーバンドが広がった305㏄エンジンの出力特性は、ピーキーなYDS3に比較して大幅にマイルド化していた。そのため、YM1は大変に扱い易いモーターサイクルに変身することになり、神経質なYDS3とは一線を画するツーリング・モデル的な用途にも使えるうモーターサイクルになっていた。

 実際、YM1はトップギアで30㎞/h走行も可能なほどフレキシビリティーに富んだ性格へと変身していたのだ。YM1のライダーは、スタート時の微妙なクラッチミート操作からは、完全に解放されることになった。また、執拗にシフト・チェンジを繰り返す必要もなくなったために、ライダーは気楽なクルージングを楽しむことも可能になっていたのだ。しかし、ひとたび鞭をいれれば、YM1は、YDS3顔負けの瞬発力も発揮できた。こうした変身は、アメリカ市場の大方のライダーには歓迎された、といわれている。YESにとってかわって登場したYM1はその後、1966年にマイナーチェンジをうけ、兄弟車のYDS3と同様なカラーリングに変更された。

 そして、1967年にYDS3がDS5Eにフル・モデルチェンジされたのにともなって、やはり瓜ふたつのスタイルのYM2へと発展したのである。YM1は、市場の要求に応えて、ごく短期間に開発されたロードスポーツだった。そのため、ほぼすべての部分を既成のYDS3のパーツから流用してつくられたモーターサイクルだった。いや、YM1はYDS3のバリエーション・モデルのひとつにすぎなかった、といっても差し支えないだろう。そのため、YM1には、際立ったオリジナリティは感じられなかった。YM1は、本格的な大排気量ロードスポーツが開発されるまでの橋渡し、という大役を無難にこなして、その生涯をまっとうしたのである。

風倶楽部

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