C90/92 (1957/1959 年)
ホンダ初のロードスポーツ、CB92の直接のルーツとなったモデルが、1957年7 月に登場したベンリイC90である。C90はまったくの実用モデルとして開発されていたが、2気筒エンジンを鋼板プレスのバックボーンフレームに搭載するなど、基本的な構造は、ほぼCB92の形態をそなえていた。小さな4サイクルOHC2気筒エンジンは、ボア・ストローク( 44mm×41mm) こそCB92と同一であったが、圧縮比は中低速での使い勝手を優先して、8.5 対1 と低めに抑えられていた。そのため、最高出力はCB92の15ps/10500rpm に対して、11.5ps/9500 rpm にとどまったが、それでもC90は当時の実用モデルとしては群を抜く高性能を誇っていた。
また、外観上の特徴ともいえるボトムリンク式サスペンションは、同社のアサマ型レーサーでも採用されていたメカニズムで、一般的なテレスコピック式に比べて、特にフロントフォーク下部の剛性が高く、当時の劣悪な道路事情に対しては有効であった。こうしたプレス加工によるフレームやリンク式サスペンションはその後、ライバル・メーカーの後発モデルにも多大な影響を与え、巷には似たようなスタイルのオートバイが氾濫することにもなった。
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好評のC90はその後、1959年 3月にマイナーチェンジを受けて、ベンリイC92へと発展した。このC90からC92への変更点は唯一、セルモーターが装備された点にあった。C92はスターターモーターを得て、より実用性が向上することになった。セルモーターの採用にともない、C92ではクランクケースとクランクシャフトが新設計となり、バッテリーが6Vの6アンペアーから11アンペアーへと容量アップされていた。だが、マイナーチェンジによる変更はこの程度で、特徴的なプレス・バックボーンフレームやボトムリンク・サスペンションは、そのまま踏襲されていた。そのため、両車を識別する外観上の相違点はごく少ない。
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C90/92 は、実用モデルとして成功したのはもちろん、当時、その動力性能に着目したマニアも少なくなかった。新たに開発された高性能パラレルツイン・エンジンを搭載したCシリーズは、ホンダ初のロードスポーツ、CBシリーズの伏線ともいうべき、画期的なオートバイであった。
CB90 (1959 年)
戦後復興も一段落した1950年代後半、我が国は神武景気と呼ばれた経済成長期を迎えることになった。こうした時代背景の下、それまで実用一点張りだったオートバイの世界にも、新たなニーズが芽生えはじめていた。オートバイの持つ本来の魅力、スポーツ性への要求が次第にたかまりつつあったのだ。
こうしたスポーツ志向のユーザーの声に応えて、ホンダ初の本格的なロードスポーツとしてベンリイ・スーパースポーツCB90がデビューしたのは、1959年 1月のことだった。このCBと命名されたスポーツ・モデルは、先に市販されていた実用モデル、C90をベースに開発されたオートバイであった。したがって、モノコック構造の鋼板プレス・バックボーンフレームやボトムリンク・サス、パラレルツイン・エンジンなどは、実用モデルを基本的に踏襲したものであった。だが、タンクやフェンダー、シートなどのデザイン変更によって、CB90は見事なまでにスポーツ・モデルに変身していた。
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実用モデル、C90のメーカー・チューン版ともいえそうなCB90の成り立ちだが、その誕生の影には、マン島TTレースへのホンダの強い意志が秘められていた。CB90が発表された1959年、ホンダは“工場レーサー”RC141 を擁して、マン島TTレースに悲願の初参加を果たしている。このTTレースのプロダクション(量産車)部門に参戦をもくろんで、“急遽”製作されたのがCB90だったのである。(こうした事情を理解すればC90とCB90の関係が、より明確になるはずだ) だが、この年のTTレースでは、肝心のプロダクション部門のレースが中止されることになり、CB90の存在は一転して宙に浮くことになってしまったのだ。CB90は結局、ごく少数が市販されただけで、短い生涯をとじることになった。
ちなみにTTレースに遠征したワークスレーサー、RC141 に搭載されていたDOHC2気筒エンジンとCB90のOHC2気筒エンジンは、44mm×41mmという共通のボア・ストロークを有していた。
CB95 (1959 年)
CB92のバリエーション・モデルとして、1959年 9月に市販が開始されたのがベンリイCB95。とはいってもCB95の場合、パラレルツイン・エンジンの排気量以外、基本的にはCB92の構成パーツをすべての面で流用した派生モデルで、公表された車両寸法にミリ単位の微妙な相違点はあるが、たとえ並べてみても外観で両車を識別することは難しい。エンジンに関してみると、ボアのみがCB92の44áoから49áoに拡大された結果、総排気量が154 átに拡大され、最高出力は1.5 馬力アップの16.5ps/10000rpm 、最高速度は5km/hアップの135km/hと、わずかながら性能が向上していた。
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