GOLDWING GL1500 1988y
ホンダの、というより世界中のキングサイズツアラーの頂点に立ち、独特の個性と圧倒的な信頼感で大地を踏み締め駆ける、バイクの1つの到達点と呼べるのがゴールドウイングだ。このゴールドウイングというネーミング、もともとは水冷水平対向4気筒エンジンを搭載したGL1000に冠せられていたわけで、そこから発展してきた1100/1200のアスペンケードもゴールドウイング一族。ただし、1000から1200までの進化は同形式エンジンのスケールアップだったのに対し、このモデルではエンジンを水平対向6気筒に刷新しているのが最大の特長だ。
水平対向6気筒。4輪の世界でも一部車種にしか採用されていない巨大なエンジンは、ゴールドウイングの存在すべてを決定づけるほどのインパクトがある。1520ccという排気量もさることながら、真近で見るととにかく巨大。ボディサイズがエンジンに輪をかけて巨大なので意外に目立たないが、左右に張り出した箱のようなシリンダーと丸太のようなクランクケース、各気筒に伸びる6本のインテークマニホールドとエキゾーストパイプには、辺りを威圧するかのような凄味がある。
恐る恐る跨って始動させてみると、この巨大なエンジンは呆気なくアイドリングを開始する。この瞬間から、従来のバイクのイメージがまったく通用しないことがわかる。ざわめくような排気音、耳を近付けなければ聞こえないほど静かなメカノイズ、そして、スポンジを握っているかのような振動の少なさ。4輪車みたいだというより、エンジンだけがどこか別の時空で動いているかのような感覚なのだ。ミッションは4速プラスオーバードライブの設定だが、なにせこの巨体では押し歩きができないため、電動式のバックギアが組み込まれている。駆動方式はシャフトドライブで、これもチェーンと異なり作動音はほぼ皆無。とにかく静かで重厚。これに尽きる。
高級ソファーのようなシートにゆったりと身体を沈めて、大きく手前に引かれたハンドルを握って走り出してみると、乾燥重量360kgの重さがフッと消え、ゆったりと宙を漂っているような浮遊感に包まれる。前後のサスペンションはエアで制御され、内蔵ポンプにより固さや車高の調整がワンタッチで可能になっている。信じられないことに、ハンドリングはまるで400ccクラスを転がしているかのように軽快。どんな外乱でもまったくびくともしない圧倒的な安定感はひしひしと感じるが、渋滞路やワインディングも苦もなくこなしてしまうのだ。ブレーキはよく利くし、加減速はスムーズきわまりないうえに驚くほど力強いし、ライディングポジションはどこにも不自然なところがない安楽至極なものだしで、慣れてしまえばまったく気負わずにどこにでも走っていける。ただひとつ、あまりに幅が広いためすり抜けが不可能な点を除いては。
快適装備の数々も、さすがキングツアラーの頂点にふさわしい充実度だ。もとから風がほとんど当たらないほどの高い居住性を誇るカウリングには、効果的な温風吹出し口が設けられて真冬のツーリングでもまったく苦にならないし、標準装備のFM/AMラジオもハッキリした音で耳を楽しませてくれる。もはやこれはバイクではなく、観光バスか海洋クルーザーかと錯覚してしまうほどの快適さに、理屈を超越した不思議な世界へと飛び込んでしまったかのような錯覚にかられる。足付き性が芳しくないため慣れないと渋滞路でてこずるかもしれないし、国内での使用に向いているバイクとは決して言えないが、そんな常識などどうでも良くなってしまう。夢のバイク、という言葉は昔から存在する。しかし、いま自分がバイクに乗っているんだ、という現実を忘れさせてしまうという意味での夢の走りを具現化させてくれるバイクは、このゴールドウイング以外にはそうそう出現しないだろう。
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