CBR900RR 1992y
80年代を席捲したレプリカブームは、バイク人口を大幅に増やすとともに、バイクそれ自体にも大きな変革と進化をもたらした。もちろん、レプリカブームの功罪は相半ばしており、ブームに沸き返るなかでもバイクの未来を懸念する意見があったことは事実。案の定、量の増加は質の低下という言葉があるように、急激に増えたライダー人口はさまざまなあつれきと欠陥を生み出したし、その歪みはもしかしたら現在も続いているかもしれない。しかし、バイクという機械製品にとっては、すべてのファクターが善であったと断言しても、あながち間違いではないだろう。街乗りには到底向かないようなモデルのオンパレードがアダルトライダーの趣味を無視したものであったとしても、過激な性能ゆえに未熟なライダーの事故が続出したとしても、それはあくまでバイクとライダーとの関わり方の問題であり、技術的な部分には退歩は見られないからだ。
そんなレプリカブームの中で、圧倒的な人気を誇ったのがCBR-RRシリーズであった。レプリカ人気が過去のものとなり、各社のレプリカが続々と戦線縮小を迫られた昨今にあっても、いまだ安定した人気と評価を保ち続けていることを見ても、RRというシリーズの実力の程がわかるだろう。しかし、RRは基本的にミドルクラスのバイク。リッタークラスのモデルになると、ホンダはいまひとつスポーティな味わいを欠いていた。
ところが、前触れもなく姿を現したCBR900RRは、ミドルクラス以上にレプリカの頂点を極めるバイクだった。パワーはあくまでも高く、ボディはあくまでも軽く、フットワークはあくまでも俊敏に。まるで400かと見まごうばかりのコンパクトなボディは、乾燥重量たった189kgに抑えられ、これに124psを発生する水冷DOHC4気筒・893ccエンジンを搭載しているのである。これで速くないはずがない。美しい面構成のアルミツインチューブフレームや倒立かと思うほど極太のフロントフォーク、ねじり剛性の高いリアサスペンションまわり、レーシングマシン並みの利きを見せるブレーキなど、メカニズムの充実度も折り紙付き。
ビッグバイクの魅力は大排気量から生み出される豪快なパワー、という点に異論はないが、CBR900RRは目指す方向性が異なる。ハイパワーが得られるなら排気量は小さい方がいいし、安定した走行性能が得られるならボディは小さい方がいい、というわけだ。すべてのパーツ、すべての設計が速く走ることのみをターゲットにして練り込まれ、このバイクにしか出せないストイックかつ過激な雰囲気を全身に漂わせている。さらに凄いのは、エンジンにもボディにも、ラフで未熟な部分がまったく見られないことだ。この手のバイクは、精一杯の背伸びをするために各部にアラが出ることがしばしばなのだが、CRR900RRは、登場した瞬間から洗練という言葉が似合う、希有な存在のバイクであった。レプリカブームの時代に貪欲に取り入れたテクノロジーが、すべて完璧に消化され、見事に結集しているのだ。
もちろん、このバイクは乗り手を選ぶ。猛烈なダッシュ力と斬れ味鋭いコーナリングを手の内にコントロールできるライダーは、一握りのごく限られたライダーだけに止まることは間違いない。しかし、そこは最新のレプリカだけに、初心者が乗っても「ああ、レプリカとはこんなに面白いのか!!」と感嘆させてくれるだけの、乗りやすさと楽しみやすさも兼ね備えている。速さという魅力を忘れてしまった現在のバイク風景にとってはじつに貴重なバイクであり、またチャレンジしがいのある目標でもあるのだ。(1475W/20W×76L)
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