CBR1100XX Super Black Bird 1996

CBR1100XX 1996y

 ホンダのビッグバイクは、どのモデルをとってもある種のおとなしさ、というか、なんとなく冷静に一歩引いて物事を考えているかのようなイメージがある。それは、ホンダ特有の取っ付きやすさであったり、精度感が際立つ乗り味だったり、ジェントルな香りを漂わせるデザインだったり、理由はさまざま考えられるだろう。CBR1100XXスーパーブラックバードも、やはりこのホンダらしい味わいが顔を見せている。しかしそのたたずまいの裏には、ライダーの思考回路を停止させるほどの、非常識と言ってもいいインパクトを隠しているのだ。CBR900RRともCBR1000Fともまったく異なる、有史以来最速の公道走行機械、それがCBR1100XXの本気である。

 CBR1100XXのコンセプトは明快だ。史上最速の最高速と加速が誰にでも、たとえ初心者ライダーにでも楽しめ、ワインディングではレプリカに匹敵するコーナリング性能を見せ、シティランではコミューター並みの扱いやすさを確保し、ロングツーリングを心から楽しめる快適性と安心感を持ち、なおかつ所有する喜びを味わえるバイク。たしかに、こんなバイクはライダーにとって理想であり、夢であるだろう。しかし現実を考えれば、こんな要求は机上の空論、妄想の類だと片付けられていたはずだ。しかし、ホンダはその妄想を現実にしてしまったのだ。

 CBR900RRに搭載されている水冷DOHCエンジンを1137ccまでスケールアップし、徹底的なオールラウンドチューニングを施した結果、得られた最高出力は164ps!! それも、発生回転数は1万回転にまで達しているのだ。最大トルクのほうも12.7kg-mとウルトラ級。まるでターボチューニングしたかのようなド迫力のスペックだ。さらに凄いのは、これだけの爆発的なパワーとトルクを持ちながらも、極低回転域から一直線に力がみなぎっていること。なんと、驚くことにこのエンジンは、フラットトルク的な性格も持ち合せているのである。加えて、2輪車初の2軸式バランサー採用により、振動や騒音もしっかり押さえ込んでいる。

 スーパースポーツ然としたフォルムを持つボディは、空力特性を徹底的に追い求めている。整流効果を得るためにアゴが突き出したカウルと上下2段に重ねられたヘッドライト、エアロフォルムのバックミラーに埋め込まれたウインカーなどがわずかに個性を主張するが、全体のイメージは呆気ないほどさり気ない。しかし、極太のフレームや43φのフロントフォーク、超高品質のリアショック、フル6ポットの強力なブレーキに組み合わされたリアブレーキペダル連動制動機構のDCBSなど、思わず目を見張るメカニズムが満載されている。それでいて車重はわずか223kgしかないのだから、これもまた常識外れである。

 しかし、メカニズムやスペックに驚いている場合ではない。乗り味が強烈なのだ。スロットルをひねるだけであっという間に300km/hオーバーまで達してしまうのも驚異だが、こんな速度で走っていても車体はピシッと安定し、ハンドリングも100km/h程度の徐行(!!)運転時とほとんど変わらない。そのうえ、ライダーのほうはいたって平和に快適にこの速度を維持できるし、ラインを変えたり急制動をかけたりがまさに自由自在なのだ。正直な話、CBR1100XXからは、ポテンシャルをフルに発揮させて気分を高揚に導く、真剣勝負の気合いをあまり感じさせない。言うならば、テレビゲームに興じているような、不思議な非現実感が漂っている。そしてその疾走する先は、SF映画に出てくる未来のバイクに直結しているような、そんな気がしてならないのだ。


ホンダCBR1100SuperBlackbird 1996y

エンジン:水冷 4サイクルDOHC 4バルブ 4気筒 総排気量:1,137cc ボア&ストローク:79×58.0mm 圧縮比:11.0 最高出力:164ps/10,000rpm 最大トルク:12.7kg-m/7,250rpm 始動方式:セル 変速機: 6段 全長:2,160 全幅:720 全高:1,170 地上高:130 軸間距離:1,490 シート高:810mm 重量:223kg 燃料タンク容量:22  キャスター:25°00′トレール:99mm タイヤサイズ:(f)120/70-17 (r)180/55-17 輸出車

風倶楽部

バイク全般のヒストリーが中心となります。バイク好きの人たちが気軽に閲覧できるようにオープンな状態を保っていきたいと願っています。アメブロに掲載してきた記事が多くはなりますが、補足を加えていきます。

0コメント

  • 1000 / 1000