SUZUKI GT750 1971

SUZUKI GT750 1971y 

(リード)

国内では量産車として初の水冷シリンダーを採用したモデル。T500では、あまりにもオーソドックスにまとめ上げられたせいか、センセーショナルな印象ではなかった。が、トリプル・シリンダーの水冷2サイクルには、正直に言って驚かされた。1963年辺りから、GPマシンにも水冷化が見られるようになったとは言え、量産車での採用には未だ懐疑的な時代だったからだ。

(本文)

 カワサキの「マッハ」に対抗するかのようにトリプル・シリンダーを選択。明らかにし得る手段として水冷化を実現。いずれ、多くのメーカーが採用するであろうシステムなら、一日でも早い方がイニシアチブを握れると判断したものとも思えた。

 多気筒化、大排気量化、高性能化と進む中で、水冷化の導入は必然的な形でもあった。しかし、他メーカーが導入に慎重な姿勢をみせたのは、シリンダー周りに影響する重量増との問題。レーシングマシンでは、むしろ車両重量よりも、よりハイパワーを期待してのメリットを計算もできる。が、量産モデルとなると使用上の違いからも検討する課題は多かったに違いない。

 GT750は、ライバルとなるカワサキ「マッハ」のスプリンターぶりに対し、2ストロークであることを疑わせるようなほどジェントルな出力特性であった。決して重量を負担に感じるというものではなく、ピーキーな特性が用いられてはいないということ。シリンダー周りをウォータージャケットで覆い、内部のメカニカルノイズの一切もなく、極々僅かなバイブレーションと共に、のびるように加速していく。高速道路を80km/hで巡航するならトップギアで3、200rpm程で、そこから全くスムーズにトップスピードまで加速していく。決して遅いと言った感覚はない。ユッタリとしているようでも早さは十分にある。

 スズキがGT750に求めたものは、当初から出力増強の目的での水冷化ではなく、重量増を懸念することなく上級指向の2サイクルを生みだしたかったに違いない。加速時の排気煙はなく、振り落とされるような加速感も無い。2サイクルの欠点を洗い出して組み上げた上等なマシンの創造であった。100km/h、4、000rpmを越えてからの加速は特に素晴らしく、このモデルのもっとも得意とする部分かと思える。ポジション的にも窮屈感はなく、一見してユッタリの姿勢でも、その早さに自らが驚かされることもある。実際、このマシンをベースにレース用に仕上げられたTR750XR11は、AMAのシリーズでは大活躍。260km/hを越す高速サーキットを得意とするマシンで、専用のレーシングモデルと互角以上に渡り合ったことも記されてもいる。

 スズキのエンジン技術でもっとも優れているのは、なんと言ってもオイルの潤滑システム。分離給油システムは、CCISと呼ぶ強制圧送式で、1.8リッターの容量を持つオイルタンクから、クランクのビッグエンドとシリンダーに向けて6カ所の吐出口からオイルが供給される。又、クランクケースに残ったオイルをオイルホースで燃焼行程にある他のシリンダーに導き完全燃焼を行うSRIS(スズキ・リサイクル・インジェクション・システム)を導入して急加速時の排気煙の減少にも寄与させている。 又、このモデルの特徴でもある3気筒に4本出しのマフラーは、中央のエキゾーストをクランクケース下で2本に分けて左右に振り分けた為であって、後にデビューするGT550/GT 380でも同様に採用されている。

 カワサキの空冷トリプル・シリンダーに代表される2サイクルとは明らかに違う出力特性は、「ウォーター・バッファロー(水牛)」と言う輸出名称で海外でも話題をよんだ。それは、「カワサキ・トリプル」にあった暴力的な印象ではなく、穏やかでありながらも重厚な面持ちを持った仕上げを十分に評価するものだった。1973年、GT750Bが仕様を変えてデビューする。ブレーキは、フロントに244mmφのローターをデュアルで装備。シングル・シリンダーのキャリパーは、今ほどの効きは示さない。が、重量級のマシンではあっても、不満には思えないはず。初期型にあった両面式のツーリーディングよりは安定した制動力を提供してくれる。

GT750B1 1972y/GT750B2~B4 1974y 

 2サイクル3気筒のパワーユニットは、4サイクル6気筒並みのバランスを持つと言われ、その重量感溢れるフォルムや落ち着きのある走りなども手伝って、発売から高い評価を得ていた。最初のマイナーチェンジ(B1/1972y.10)では、フロントに待望のディスクブレーキをダブルで装着。乾燥重量は初代の214kg→235kgへとなってしまったが、走りの質感は確実に向上した。外観はドッシリとしてはいるが、操縦性は意外に軽快との声も少なくなかったようだ。翌’74年には、1年の間になんと計3回に渡る慌ただしい変更も行われた。まず1月には、キャブレターを負圧式→ソレックスタイプの強制開閉式に換装。さらにラジエターグリル、マフラー形状を変更したB2が登場。8月には、オーバークールを防ぐための処置として電動冷却ファンを廃止。サイドカバーの形状見直しにより、出っ張りをなくして足着き性を高めたB3へと発展。10月にはエンジンにも手が加わり、最高出力を67ps→70psへと高めたB4が登場。パワーアップに伴い、クラッチの強化とミッション変更も行われている。

GT750B5 1975y

 重厚なフォルムとクラス最強の出力を誇り、車重に見合わぬ軽快な走りを見せていたウォーターバッファローも、この5型で最期となってしまった。外観上の大きな特徴は、タンク形状を変更し、フュールキャップをカバーするフタが新設されたこと。細かいところでは、ヘッドライトが従来のセミシールドタイプからシールドビームへと変更され、装備面の充実が図られている。クラス唯一の2サイクル車ということもあってか、物珍しさばかりが話題に上がりがちだったが、フレーム剛性が高く、カッチリとした乗り味と高速域でのレスポンスに優れたアクセルワークなど、総合的な完成度の高さは、ヨーロッパにおいては、モーターサイクル各誌が高い評価を与えていた1台でもあった。


風倶楽部

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