KAWASAKI Z750Turbo(KZ750T) 1984

KAWASAKI Z750Turbo(KZ750T) 1984y

 '81 年11月の“ミラノショ−”で発表されたプロトタイプを基に量産が開始。'83 年春に輸出が開始された。Z750GP(1982y.4) に採用されたフュ−エルインジェクションを装備。最高速度235km/h 、0 →400mを10秒90のナナハンとしては驚異的な性能を有して、$1,000(当時のドル価格は日本円で235 円程度)もの高価格でデビュ−。タ−ボ車としては最も遅いデビュ−(ホンダCX500turbo/1981y、ヤマハXJ650T/1981y、スズキXN85/1983y) で、最強のスペックを誇った。が、Z1100GP を上回る動力性能は得られず、エキストラパワ−は極僅かなライダ−にのみ特権となった。

 ショーモデルのお披露目こそ早かったカワサキターボだが、実際に市販車として登場したのはCX500ターボから3年遅れ。この3年弱の期間が何を意味するものだったのかは量りようもないが、形となって現われたZ750ターボは、ターボバイクの利点も欠点も包み隠さずストレートに表現した、ある意味ターボの命運を左右したモデルだと言える。

 GPz750Fに搭載されていた空冷DOHC並列4気筒エンジンにタービンを装着し、きめ細かな混合気コントロールが可能な電子制御フューエルインジェクションを装備。外観からはこの程度の変更しかわからないが、実際にはエンジン内のパーツをターボに合わせて大きく変更、11 2psのパワーと10.12kgのトルクをひねり出している。とくにトルクはリッターバイクも真っ青の強力なデータで、ターボの採用がいかにエンジンのポテンシャルをアップするものなのかを、まぎれもない事実をもって知らしめている。

 アンダーカウルまでが連結したエアロフォルムのボディデザインと、フロントのアンチダイブ機構付きフォーク、リアのユニトラックサスペンションなどには、GPz750のイメージがそっくりそのまま織り込まれているが、もともとこれらは1981年のショーモデルでZ750ターボがチャレンジしたもの。市販時期が早かったGPz1100/GPz750、さらにはGPz900R/750Rのケーススタディ的な役割を果たしていたわけで、ターボの実験に限らず、ボディから乗り味まで、すべての部分の先行開発車として計画されたバイクなのだと考えていい。

 一見するとアンダーカウルの付いたGPz750といった風情で、スピード&タコメーターの上部に遠慮がちに設けられた液晶表示のブースト(過給圧)メーターも見落としてしまいそうだ。エンジンに火を入れ、軽くアクセルをあおってやると、眼前の液晶メーターはタコメーターの針と同調して鮮やかに広がる。しかし、ただそれだけのこと。この段階ではターボが装着されたことの意味も必然も、当然ながら理解できない。落胆しつつも走り出すと、3、000rpmあたりからブーストメータはグリーンの帯を拡げ始め、日立製のターボが効き始めたことを知らせる。そういえば、どことなく従来のナナハンよりはトルクも太いようだ。それに気をよくしてアクセルを少しばかり開いてやると、ブーストメーターはレッドの帯に入り、その瞬間マシンは蹴りとばされたように加速する。その狭間の回転数は、おそらく6、000rpm。正直に言って、それを正確に読みとる余裕はない。それほどマシンは、一気にひょう変する。そのクレージーな加速を続けながら、オーバー200km/hの壁を越えるのも取るに足らないことだ。もっとも、それが可能な道があればの話だが…。ライバルモデルがターボのクセをできる限り消す方向でセッティングしていたのに対し、Z750ターボは積極的にトルク変動を利用する方向に出ていた。つまり、ターボラグとドッカン過給は、ターボにとってネガではなく魅力だと考えていたのだろう。結果、もっともターボらしいターボバイクとして語られることにはなったものの、残念ながらファンの拡大にはつながらず、翌年のマイナーチェンジで強制開閉スロットルワイヤーとニューカラーを採用したあとは、かき消えるように姿を見せなくなってしまったのである。

 いまになって考えるとカワサキは、このZ750ターボにマッハIIIの姿を重ね合わせていたのではないだろうか。回転が上がれば突如として爆発的に加速し、未熟なライダーではコントロール不能な領域にまで飛び込んでしまう、そんな狂気と紙一重の恍惚感。プロトタイプに近いカテゴリーのバイクだったからこそなしえた確信犯的危険さだといえようが、このあたりはカワサキのチャレンジングスピリットがモロに現われていて、不思議な好感を覚えてしまうのである。

風倶楽部

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