YAMAHA XJ650LJ-Turbo 1982y
(リード)
4輪の世界では珍しくもなんともない装備になっているターボチャージャーだが、バイクの世界でも一時、ターボバイクがブームになったことがあった。各メーカーは次々にターボバイクをリリースし、次代をになう一大潮流になるか、と色めき立った。しかし、運輸省の認可が下りず、国内販売ができないなど、ブームはあっという間に下火になり、それっきりライダーの話題に登ることもなくなってしまった。
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XJ650LJ-Turboもまた、そんな一瞬の熱にうかされるように登場したターボバイクの1台だ。ベースになったのは、すでに性能と信頼性には定評を得ていた、空冷DOHC4気筒8バルブエンジン搭載の輸出用モデルのXJ650。新しいエンジンを一から開発することなく、従来型エンジンにターボを組合わせる方式は安直に見えててしまうかもしれないが、各メーカーのターボバイクはすべてがこの方式をとっていた。というのも、バイクメーカーにとってターボバイクはまったく未知の(市販車としては、ということだが)領域であり、極言すれば、海のものとも山のものともつかない存在だったからだ。つまり、エンジンを丸ごと新設計するにはリスクが大きすぎるということ。加えて、ターボ人気が急激に盛り上がったため、開発を急ぐ必要もあった。
バイクの場合、スロットルに対するエンジン反応の良し悪しがハンドリング安定性に直結する。そのため、宿命的にタイムラグが発生するターボをバイク向きにセッティングするのには困難が伴うわけだ。そこでXJ650LJ-Turboは、高回転域での過給能力、つまりはハイパワーの追求をおさえ、タイムラグが少ない小型タービンを採用。ブースト圧もコンマ5と低めに止め、中速からフラットに過給が行なわれるようにセッティングしている。そのため、最高出力こそXJ650の73ps(仕向地によって異なる)→85psと12psしかアップしていない。しかし、最大トルクは6kg-m→7.5kgとかなり向上し、力強いダッシュ力を見せてくれるようになった。
また、ノックセンサー付き電子負圧進角機構を採用し、どんな燃焼状態、アクセル開度の場合でも、最適な燃焼が行なわれるように配慮している。ターボを追加したことによる基本設計の変更は案外少なく、圧縮比が9.2→8.2へと下げられた程度。黒塗りの左右2本出しサイレンサーは、基本的な排気作業を左側で行ない、右はウエストゲートバルブからの過給圧開放に使うという凝った仕掛けが施されている。
給気はキャブレター方式のままだし、タービンは目につきにくいエンジン下方に置かれているし、で、いかにもターボエンジン、というインパクトはやや希薄な印象だ。しかし、それを補って余りあるのがスタイルだ。角と直線を基調に、ウインドプロテクションを重視したフルカウルと未来的なタンクシートまわりを採用し、存在感を盛り上げている。このデザイン、国内でも高級ツアラーのXJ750Dにそのまま流用されたことは、ベテランライダーだったらご存知だろう。
さて、気になる乗り味のほうだが、これが意外にジェントル。もちろん、スロットルを大きく開けば力強い沸き上がり、乾燥重量225kgのボディを強力に引っ張るように加速させてくれるし、上り坂や高速道路などでは、リッタークラスのバイクに勝るとも劣らない力強さを見せつけてくれる。ただし、渋滞路を含む一般走行では、ターボの恩恵は思ったよりも感じられないし、ワインディングを走ってみれば、少ないとはいえタイムラグやスロットルに対する不連続感もやや気になる。
さらに、もともとヒューンというメカノイズが大きめなエンジンのため、ターボサウンドもいまひとつエキサイティングさが足りなかった。日本のバイク使用状況に不向きな感は否めず、また逆輸入価格もそれなりに高価だったこともあって、限定解除を所有するライダー層の興味をひききれないうちに、ブームそのものが終わってしまったのである。
XJ650スペシャル1980y
RZ250と共通のデザインを持つニュー・キャストホイールを装着。新開発のDOHC4気筒を搭載したアメリカンモデル。輸出モデルのXJ650(1980y)をベースに、専用設計のフレームを与え、シートレール部を十分に低く設定している。ヤマハとしては、750ccの4気筒化(X J750E/1981y)を後送りにしてのデビューだけに興味が持たれたモデルだった。同じ排気量のXS650スペシャルが、TX650をベースとした開発過程の古さを感じさせるに至り、XJ650スペシャルの魅力がさらに新鮮に映って見えた。ハイウエーを主体としたクルージング向き。
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